臨床研究適正評価教育機構
近年,医学におけるEBMの定着とともに多くの分野において大規模臨床試験が実施され,その成績が国際学会や医学雑誌などで相次いで発表されている。大規模臨床試験の結果は,治療薬や医療機器の重要なエビデンスとしてEBMの根幹をなすものであり,その公正かつ正確な情報は臨床医が日々の医療を実践するうえで不可欠な要素となっている。
大規模臨床試験は,公平な結論を導くためにも本来は公的機関のサポートによって医師主導型でのエビデンスづくりがもとめられるが,実際にはその企画,実行,解析には膨大な費用がかかることから,多くは自社製品のエビデンスを必要とする製薬企業の経済的支援によって行われているのが現状である。
大規模臨床試験の結果報道は適正かつ公正であるべきであるが,昨今の企業支援型臨床試験の結果をみる限り,結果が適正に評価され,かつ報道されているとは言い難いものも少なくない。大規模臨床試験において試験製品が好ましいという結果が出される確率は,公的機関の支援による試験に比べて,スポンサー企業の支援によるトライアルの方が約2倍高いという報告もある。もし臨床試験において,支援企業の期待した結果が出なかった場合には,結果を論文化しない,あるいは,さまざまな後付解析を駆使して有利な点のみを強調するなどの手段がとられる場合が少なくなく,臨床の判断を誤らせる一因となりかねない。企業間の競争がますます激しくなる今日の社会情勢にあって,このような傾向は今後とも増幅しかねない懸念がある。
実際に医療の現場にたつ医療サイドにとっては,公平かつ適正な解釈に基づいた結果解釈と報道が望まれる。これまでわれわれは,講演会や雑誌などで適正解釈の意義について主張してきたが,その範囲は限定されたものであり,組織として全国の臨床医,薬業従事者のための臨床試験の適正解釈のあり方について啓発,教育する必要性を感じる。
そこで今回我々は,わが国の医療界および製薬企業双方の健全なEBMの発展と実践を願い,臨床医への適正情報の提供と臨床試験に必要な統計解析の教育,指導を目的として「臨床研究適正評価教育機構」を設立するものである。
取り組む事業内容としては,1)臨床医向け適正解釈による講演会,セミナーの開催,2)インターネット,雑誌を通じての臨床試験適正情報の発信,3)医学生,若手医師向け臨床疫学に必要な統計解析のためのワークショップ開催,4)企業社員向けEBM教育のためのセミナー開催,5)大規模臨床試験報道の監視システムの構築,などである。 ただし,本法人は臨床試験の健全な実行を推進するものであって,抑制するものであってはならないと考える。
本機構がこのような取り組みを実践することで,真のEBMがわが国に定着し,医療界と薬業界の相互協力による健全な発展と,国民の健康に寄与すること大であると確信している。